不埒な恋慕ごと。
 それから、わたしは孝輔に、朝霧くんは菜々に勉強を教えるスタイルが定着して、


しばらくすると夕飯の時間が迫って来て、わたしは準備をするために、先に帰ることにした。


結局菜々の前で朝霧くんがわたしの名前を口にすることはなく、ほっとしていたのもつかの間、


朝霧くんは机に広げていた参考書を鞄に仕舞うわたしを見て、菜々に説明していた手を止め、ついに口にしてしまった。


「寧々ちゃん、帰んの?」


朝霧くんの口からわたしの名前が飛び出した途端、その隣にいる菜々からの鋭い視線を感じた。


わたしは怖くてそちらに目を向けることが出来ずに、朝霧くんに向かって引き攣った笑いを返す。


「うん、先に帰って夕飯の準備しようかと……。」


この時慌てて席を立ったわたしは、心の中で今日はグラタンにしてあげようと決めた。


空虚な笑いを飛ばし、不自然に背中を向けると、不意に、隣で座っていた孝輔が席を立った。


「じゃあ俺も帰る。朝霧だって俺の面倒まで見てられないだろ。」


わたしがぽかんとしていると、孝輔はいくぞ、とわたしの手首を掴み、強引に出口まで進んでゆく。


朝霧くんと2人きりになれたからか、その後すぐに背中越しに、菜々の嬉しそうに弾んだ声が聞こえた。
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