不埒な恋慕ごと。
 エントランスを出た途端、孝輔は強引に掴んでいたわたしの手首を解放し、振り向いたかと思うと、にっ、と八重歯を見せて笑った。


その表情にピンときたわたしは問い掛ける。


「……わざと?」


すると孝輔は、人差し指で鼻の下を擦りながら、得意げな顔をした。


おそらく孝輔は、菜々のわたしへの怒りに勘づいて、朝霧くんと2人きりにさせることで、その怒りを少しでも沈めようとしてくれたのだろう。


実際、……自分への八つ当たりから逃げたというのもあるかもしれないけれど。


「ピンポーン!へへん、さすが俺だろ。っつーか、あいつのお前を睨む顔、マジの方でやばかったもん。」

「ありがと、……実はわたし、怖くて見られなかった。」

「……あれは本気で殺意こもってたと思うわ。」


それを聞いたわたしは、見なくてよかったと思ったのと同時に、……心底ぞっとした。


そうして、どちらからともなく同じ方向へと歩みを進め、心地の良い沈黙のなか、忙しなく鳴き続ける蝉の声を耳に、足元ばかりを見ていると、


「お前も、」


不意に孝輔が、少しおずおずとしながら口を開いた。


「お前も、さ、ああいう、朝霧みたいな男がタイプだったりすんの?

 あ、別にホラ、やっぱり双子だから、好みとかも同じだったりすんのかなー、みたいな、そういうことが知りたいだけだから。」


変に早口になっていたり、別に聞いてもいないことを口走る孝輔に不自然さを感じながらも、わたしはうーん、と思考を巡らせる。
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