不埒な恋慕ごと。
 確かに、朝霧くんは完璧で、周りの評価も高い人だけれど……。


「実際、タイプかって言われたら、わたしは違うかも。……あ、そりゃ、わたしなんかがこんな偉そうに、烏滸がましいとは思うんだけど、

 やっぱり、能力が優れてるからどうって訳じゃないと思うし、……

 わたしは、もっとこう、優しく包み込んでくれるような、そんな人が……。」


夢の見すぎだってからかわれるんじゃないかと思い、途中で言い淀む。


何気なく孝輔に目を向けると、目が合った孝輔は八重歯を見せて笑った。


わたしはその意図がわからずに、訝しげな視線を送る。


「やーっぱおまえは違うなあ。あ、……朝霧には気いつけたほうがいいよ。

 女の子落としておいて、こっぴどくフッてその反応を楽しんでるってウワサだから。だからあいつ、おまえの妹も、危ないかも。」

「……え。」


わたしが情けない声を漏らしたところで、スーパーへの曲がり角に到着してしまい、


心地悪さの余韻を残しながら、じゃ、と手を振りながら孝輔は背中を向けて行ってしまった。


とりあえず、わたしなんかがターゲットにすらなることはまずないと思うから安心だけど、


あんなに好きだと全身で言っているような菜々は、今のが本当だとしたら、確かに危ない。


けれど菜々に言って、今みたいなこと、信じるんだろうか……。


逆に、わたしが朝霧くんを狙ってるから、嘘ついてるみたいになっちゃうんじゃ……。


大きなため息を吐きながら、……とりあえずわたしは、グラタンの材料を買うために、スーパーへと足を進めた。
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