不埒な恋慕ごと。
「もう、お姉ちゃんってばひどーいっ!!」


玄関の扉が開いたと同時に、菜々が大きくそう叫んだことに、キッチンに立っていたわたしはきたっ、と首をすくめて構える。


バタバタと廊下を進む菜々の足音に、心拍数がぐんぐんと上がるのを全身で感じた。


「お姉ちゃん……。」


調理台のすぐ後ろまできた気配に、わたしは冷や汗をかく。


ぼそりと言った菜々の気配が、何故かどんどん近づいて、……そしていきなり抱きつかれたかと思うと、菜々は小さく呟いた。


「超、緊張したあ……。」

「……」


あれ、……怒ってない?


わたしがひとりほっとしていると、菜々は緊張の糸が切れて、それまでに溜まっていたものを全て吐き出し始めた。


「はあ、ほんともう死んじゃいそうだった。めちゃめちゃ近かったもん。ていうかね、朝霧くんてばほんと爪の先まで綺麗なんだよ、ふざけてるよね。」


背中にぴったりとくっついたまま早口で話す菜々に、わたしはくすくすと笑う。
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