不埒な恋慕ごと。
 菜々のこういう所は、ほんと可愛いんだけどな、……怒らせてしまうと、かなり厄介だ。


ふと、わたしの手元に目を移した菜々がわたしから離れ、顔を覗き込んできた。


「え、今日グラタンなの?」

「うん。」

「やった!あー、もうほんといい日!」


ご機嫌な菜々の様子に、わたしはひっそりと安堵の息を吐いた。


……にしても。


――『朝霧には気いつけたほうがいいよ。

 女の子落としておいて、こっぴどくフッてその反応を楽しんでるってウワサだから。だからあいつ、おまえの妹も、危ないかも。』


言うべきなんだろうか、言わないべきなんだろうか……。


でも、嘘か本当かもわからないし、もしかしたらモテる朝霧くんへの僻みや、フラれた腹いせに誰かが流したウワサかもしれないし……。


だけどもし、本当だったとしたら。


ちらりと、わたしの後ろで歌い始めた菜々に視線を送る。


狭いキッチンだというのに、くるくると回って踊りまで加えていた。


とりあえず今は、……言わない方がいいかな。
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