不埒な恋慕ごと。
***


翌日も塾へと向かい、授業を終えて教室を出ると、そこには菜々が立っていた。


今日は確かBクラスの授業は1時間短かったことを思い出し、疑問に思ったわたしはすぐに駆け寄った。


「……どうしたの?」


わたしが問うと、菜々は照れくさそうにはにかんだ。


「朝霧くん、居るかなあって。用事あるかもしれないけど、もしよかったらまた教えてもらいたいなって。」


ふと、わたしの頭にまた孝輔の言葉が過る。


朝霧くんは確かに今日も居る、……だけど。


今、朝霧くんは居ないと嘘をついて、菜々の手を引っ張って家に帰れば、朝霧くんとの接触を避けられる。


でも、菜々は1時間もここで待っていたのに、それを無駄にするなんて……。


わたしが嘘をつくことを躊躇っている間に、菜々はわたしの後ろを見つめ、一気に表情を明るくした。


そして菜々はすぐにわたしの横をすり抜けて、教室の扉の方へ行ってしまった。


……遅かった。


振り返れば、案の定朝霧くんの姿があって、丁度菜々が話し掛けているところだった。


ならせめて、今日は用事があるとかで断って……!


そんな願いも虚しく、朝霧くんは何か考えるように一旦天井を見て、爽やかな笑顔を浮かべ、


「今日も用事はないし、いいよ。」


さらりとそう言った。


その言葉に、わたしはがくん、と気を落とした。
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