不埒な恋慕ごと。
 一緒に作ったハンバーグを口に運ぶと、テーブルを挟んで向かい側に腰掛ける蒼生くんが、とても幸せそうに同じものを頬張るのが目に入った。


幸せそうな顔をじっと見つめていると、目が合い、わたしも蒼生くんも同じように微笑む。


さっき、帰りの道中で見た紫陽花のことを思い出し、ふと思う。


もうすっかり、蒼生くんと2人でご飯を作って食べるのも、日常の一部に溶け込んでしまったと。


大好物だったからか、蒼生くんは一瞬にしてわたしのより1つ多かったハンバーグを平らげてしまった。


2人分の食器を洗いながら、わたしの中にはずっと、あの紫陽花のことが浮かんでいた。


去年も同じように咲いていた、あの紫陽花……。


『もうすぐ、1年になるね。』そんな言葉が何度も浮かんでは、消えて、……近くまで来ても、喉に引っかかって発することができなかった。


蒼生くんに思い出させることをしたくなかった。


……違う、多分蒼生くんも、同じように考えているはずだ。


わたしは、ただ……。


ただ、このふわふわした曖昧さに、浸っていたかっただけだった。


喉の奥に留まるこの言葉は、わたしたちに鋭い現実を突きつける。


わたしはそれが、……怖かっただけだ。
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