不埒な恋慕ごと。
「大丈夫だって。俺思ったんだけどさ、アイツ、何言ったって多分聞かない性格だろ?ああいうヤツに横から入って悪く言ったって無駄だって。

 だからもうこっぴどくふられちゃった方が反って諦めつくんじゃないの?」

「え、……でも、わかってて見捨てるなんて、そんなのカワイソウ……。」


と、言いつつも、わたしは孝輔の言葉に納得出来てしまっていた。


それでも煮え切らない態度のわたしに、孝輔は目は教科書に向けたまま、ペンをくるくると回しながら更に続けた。


「でもお前も正直、そう思って言えなかったんじゃないの?」

「う、……ん。」

「じゃあいいじゃん。あんまり邪魔しても怪しまれるし、放っておけば。」


結局わたしは何も言い返すことが出来ずにそう丸め込まれ、勉強勉強!と切り替えた孝輔に、これ以上この話を続けることは出来なかった。


孝輔に勉強を教えながらも気になってしきりに2人の方を見ていると、不意に朝霧くんが席を立ち、わたしは慌てて目を逸らす。


トイレにでも行くのかと思っていたのに、静かなこの場所に響く微かな足音は、トイレとは反対のこちらに向かっているように思えて、


何気なく視線を送ると、目が合った彼は優しい微笑みを見せた。


そんな笑顔の裏側に、孝輔の言うような本性があるなんて、わたしにはとても思えなかった。
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