不埒な恋慕ごと。
 その後すぐに女子のリレーが行われ、昨日の菜々の言葉を思い出し、わたしは観戦することにして、ベンチに腰掛けた。


すると、首からかけたタオルで汗を拭っていた朝霧くんと目が合って、彼は爽やかな笑顔を浮かべて、わたしの元へ駆け寄ってきた。


「隣、いい?」

「あ、うん……。」


つい周りが気になって見回すも、みんなは始まってしまったリレーに夢中だ。


「さっき、……すごかったね、独走……。」


つい沈黙が気まずくて話題を振ると、朝霧くんはまあね、と少し得意げに笑った。


「俺、毎朝走ってるから、……負けるわけにはいかないって、半分意地だよ。」

「え、毎朝?……すごい。」


そこで会話が途切れて、リレーに目線を向ける。


菜々のクラスはわりと強いらしく、現在2位で、1位といい争いをしている。


自分のクラスを置いて心の中で応援していると、今度は朝霧くんが話を振ってきた。


「……望月クンは、何出るの?」

「……え、孝輔?」


出てきた意外な名前に、つい聞き返してしまう。


朝霧くんがこくんと頷いたのを見て、昨日孝輔が言っていた言葉を思い返してみる。


確か……。


俺は短距離派だって、100m走選んでたっけ。


それを伝えると、朝霧くんは爽やかな笑顔を一瞬崩したかと思うと、また笑った。


「そっか、……それはザンネン。」

「?どうし、……」


そこで『頑張れ菜々!!』と声援が聞こえ、わたしはスタートラインに立つ菜々の方が気になって、この話は結局このまま終わってしまった。
< 39 / 42 >

この作品をシェア

pagetop