不埒な恋慕ごと。
 やがて1階に到着し、エントランスを出ると、わたしと蒼生くんは反対の道を歩き出す、……はずだった。


前に進もうとした身体が引き止められ、わたしの左腕を掴む蒼生くんをぽかんと見つめる。


「……寧々ちゃん。」


蒼生くんは神妙な面持ちで、優しくわたしの名前を囁くと、少し強引に身体を寄せ、ゆっくりと、顔を近づけてきた。


唇同士が軽く触れると、ほんの少し顔を離し、蒼生くんは柔らかく微笑む。


「今日はお預けだから、いいでしょ。

 ……寧々ちゃん、明日は俺、カレーが食べたいな。」

「ん、わかった……。」


近い距離が恥ずかしくて目を伏せると、蒼生くんはわたしの唇をぺろりと舐めた。


「……ごちそうさま。」


赤くなった顔を見られたくなくて、わたしは顔が離れるとすぐに俯く。


「……大学、頑張って。」

「寧々ちゃんも高校、頑張ってね。」


こっちが赤くなっているにも関わらず、蒼生くんは余裕そうに微笑を浮かべ、軽く手を振りながら背中を向ける。


しかしそれは、すぐにこちらに向き直り、


「寧々ちゃん顔、……トマトみたいだよ。」


そう意地悪な言葉を残して、去って行った。


……ずるい。


蒼生くんは、ずるい。


わたしのことなんか好きじゃないくせに、ああやって意地悪に微笑んで、熱を残して去って行く。


……だから余計に、恋しくなって、忘れたくても、忘れられない。
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