獣耳彼氏
「それよりも、早くしゃがんでください」
「嫌だ」
断固としてしゃがもうとはしない秋月くん。
それでも、諦めきれない私。
お互いが譲らない。そうだ!
「…ああ!」
秋月くんの後ろを指差し、大声を上げる。
普通の人だったら、振り返って隙が出来るはずなのに。
秋月くんは見向きもしない。だめじゃん。じゃあ、次!
秋月くんに近寄り、その場でジャンプ。
そして、手を伸ばすが避けられあえなく失敗。
確かに、この方法は無理があるのは分かっていた。
口をへの字に曲げ、秋月くんを見上げる。
「…ふっ」
と鼻で笑うと、次の瞬間には頭にあった獣耳はなくなっていた。
勝ち誇ったような笑みを浮かべる秋月くんに胸が高鳴る。
って!私、何をしたの!?
今になって、理性が戻り恥ずかしくなってきた。
欲求を満たすためとはいえ、どうにかして獣耳に触ろうとするなんて…
さっきまでの私はどうかしてた。
触りたい欲求は満たされた訳ではないけど、今日はもう触ることが出来そうにないし、諦めよう。
「帰るぞ」
「あ!待って、秋月くん!」
ここまで、連れてきたのは秋月くんだっていうのに、私を置いて先に歩き出した。
薄情な!
何から逃げてきたのかは分からず終いで、そのことも今日の私はすっかり忘れてしまっていた。
ただ、ひたすらに次どうやって彼の耳を触ろうかそれだけを考えていた…