獣耳彼氏
その人は私のよく知っている人物。
「秋月くん…」
私には気づいていないみたいで、彼はそのままどこかへ歩き出した。
同じ門から出てきたのだ。
恐らく二人は知り合い、なのだと思うけど。
「秋」
目が合った女性が秋月くんを呼び止める。
彼女の呼び掛けに秋月くんが足を止め、振り返る。
刹那、彼の茶色の瞳が私を捉えた。
なぜ、私がここに居るのか分からないといった感じに目を丸くする。
「マコト…?」
「あ。こ、こんにちは…」
咄嗟に出た言葉がそれだった。
目の前に立つ彼女が言った言葉。
『秋』
それの指す意味がなんなのか。
そればかりを考えてしまって。
愛称で呼ぶ関係性。
それが一体なんなのかを。
「知り合い?」
「ああ…」
秋月くんが彼女と交わした言葉はそれだけなのに、やけに仲が良さそうに見えて。
惨めな気持ちになる。
私は秋月くんが好きだけれど、秋月くんが好きなのは彼女なのかもしれない。
だから、私の告白になんの反応も示さなかったのだと。
そりゃ、こんな美人の彼女が居たら私なんて眼中に入るわけがない。
二人の並ぶ姿が見ていられなくて俯く。
到底、私にはかなわない相手。