獣耳彼氏
「マコト、行くぞ」
「えっ?あの、でも…」
戸惑う私を他所にそれだけ言うと私を置いて先に行ってしまった秋月くん。
その場には自分一人だけが取り残された。
薄情にも誰も案内をしてはくれない。
ど、どうしたらいいの…?
目の前に聳える大きな門。
女性には入ってと言われたけど、ここはあの人の家ってことなの?
門の所には達筆な字で龍宮と書かれている。
ーリュウグウ?それが苗字だとしたらどれだけ尊厳か。
「真琴!早く入って来い!」
お兄ちゃんが中から呼んでいる。
そんな叫ばなくても聞こえてる。
普通の人だったら、人様の家に図々しく入って行ける訳がないじゃない。
でも、お兄ちゃんが呼んではいるけれど、その近くには秋月くんと女の人が待っているのだと思うと覚悟を決めるしかない。
意を決して私は門を開け潜った。
「失礼しま、す…?」
一歩、門を超え体全体をその敷地内へと踏み入れる。
瞬間、少しの違和感を感じた。
言葉には言い表しにくいし詳しくは分からないけど、門を潜った途端何かが変わったのだと。
直感的にそう思う。