獣耳彼氏
見たことある色。
つい最近知ったその綺麗な色。
「やっぱり綺麗…」
思わず言葉が溢れてしまった。
ほんの一息を吐き出したくらいの小さな声。
誰にも聞こえることはないだろうと思っていたのに、その人は振り返った。
2度目となるその人の瞳が私を捉える。
この間よりも、格段に近い距離で目が合う。
やっぱり、あの時の彼だ。
ショッピングモールで見た彼。
その人がここにいた。
「お前…」
その人の男らしい低く、どこか心地よい声が耳を揺らした。
茶色の瞳で見られたことで、体が石のように固まってしまったかのような錯覚に陥る。
なぜか、動くことが出来なかった。
思うように言葉も発せない。
なぜとか、思うヒマもなかった。
「…お前、あの時の背負い投げ女か」
「う、え…っ!?」
ズルっと足が滑った。
動かないと思っていた体が動いて、出せないと思った声が出る。
な、何なの、その覚え方!
背負い投げ女って。
女の子に言う言葉じゃない!
まあ、彼が私のことを知っていたってことが奇跡に近いけど、それでも言い方ってものが…
何とか、崩れた体勢を立て直すと、今度は正面から彼の姿を見た。