獣耳彼氏
「つ、司!いいから、説明を始めてくて…」
恥ずかしそうに顔を赤くしたお兄ちゃん。
それこそ、こんな風に照れて顔を染めるお兄ちゃんを初めて見た。
ふと気になって秋月くんの姿を探す。
さっきから、話にも入ってこず空気のような存在となっている彼は道場の片隅に座っていた。
それも寝ている。
片膝を立て、腕に顔を乗せて。いつのまに。
さっきまで、お兄ちゃんが怒りを示していた相手はなんて自由で、なんて無防備なんだ。
本当に寝ているのかは定かではないけど。
この空気の中で我関せずで居られるのも凄い。
「それじゃあ、真琴。秋のことは凌に任せてちょっと、付いて来て貰える?」
「あ、はい」
「え、ちょっと…」
「凌はここで待っていて」
有無を言わせぬ司さんの物言いにお兄ちゃんは渋々頷いた。
司さんとはほぼ初対面にも関わらず、呼び捨てで呼ばれたけれどちっとも気にならない。
それは、彼女。司さんだからなのだろうか。
司さんが道場から出て行く後ろを付いて歩く。
どこに行くのかは分からないけど、黙って彼女の後を追うことに。
道場を出る間際、チラリと見えたお兄ちゃんがニヤリと寒気の出る微笑みを携えていたように見えた。