獣耳彼氏
広い敷地を持つこのお屋敷。
門を潜った時に感じた違和感、それが分かった気がする。
他と比べると、どこか空気が澄んでいるような感じ。
それが感じた違和感の正体なのか。
確信は持てないけど。
「あそこの部屋よ。あがって」
しばらく歩くと司さんが指差した。
その先には、ズラッと並んだ大量の襖。
あそこと言われても、襖の列しかなくてよく分からない。
部屋といっても、どこからどこまでが部屋なのかも測れない。
特に柱とかも見当たらないし。
縁側から上がる司さんを見て、私も慌てて靴を脱いだ。
そして、私を振り返り居ることを確認すると、体を向き直し目の前にある襖をゆっくりと引いた。
「っ!?」
ーーバンッ!
思わず。思わず、司さんの手から襖を奪って勢いよく閉めていた。
襖の先には広がった光景が緑だったから。
鮮やかな緑色、一色だったから。
その緑色はなんとなく、動物の顔のようにも見えた。
言うなれば、そう、空想上の生き物、龍のような顔。
緑色の顔が視界一杯を埋め尽くした。
一瞬のことで閉めていたから、なんとも言えないけど。
とりあえず、見てはいけないようなものを見てしまった気がする。
バクバクと心臓がびくつき暴れている。