獣耳彼氏
「ちょっと、リョク。何しているのよ…」
呆れたような物言いだけど、確実に笑っている。
司さんはクスクスと口に手を当て、肩を揺らしている。
かく言う私は、肩で息をしている。
だって、本当にびっくりしたんだもん。
なに、あの緑色の物体は…!
『すまぬな。良かれと思い、やったことだ』
頭の中に直接響いて聞こえてくる声。
司さんでも自分のものでもない声にあたりを見回す。
当たり前に私たち以外には誰も居ない。
ん、待てよ。居た。
私と司さん以外の人…と言っていいのか、存在が。
さっきの緑色の存在だ。
「真琴」
「あ!すみません…」
勝手に襖を閉めてしまったことで中にも入れず。
入っていいものかと、入れるのかと、立ち尽くしていると、司さんが私の肩に手を置いた。
彼女は苦笑しつつも、再び襖を引いた。
また、あの顔が現れるかもしれない。
と、心の中で覚悟を決める。
しかし、その覚悟は空振りで終わってしまう。