獣耳彼氏
本当の理由
「まあ、いいわ…大体のことは理解できたわよね。戻るわよ」
「え、あ。はい」
理解できたかできていないかと問われたら、不安なことは沢山ある。
けど、有無を言わせない司さんの物言いに頷くことしかできないのは当たり前である。
私の返事を待たずして歩き出した司さんの後を追いかける。
気が付けば部屋の中を埋め尽くしていたリョクさんの姿は跡形もなく消えていた。
バンッ!
「な、何!?」
司さんの後をついて歩いていた時、大きな振動と共に衝撃音が辺りに響いた。
その音が聞こえてきた方向は感覚からして、今私たちが向かおうとしていた先。
恐らくは道場から。
「あの…馬鹿共…」
司さんが低く呟く。
左手首につけているブレスレットが淡く光を放つ。
何かを訴えるかのようにそれは淡い明滅を繰り返している。
「急ぐわよ」
先を行く司さんが駆け出した。軽やかな足の運びはとても速い。
突然のことで暫く動き出せなかった。
司さんの姿が見えなくなった所で慌てて彼女の後を追った。