獣耳彼氏
「チッ…」
むくりと壁伝いに立ち上がるお兄ちゃんを見て、秋月くんが舌を打つ。
続いて秋月くんの周りに青白い炎が浮かび上がったと思ったら、それが一斉にお兄ちゃんへと襲いかかる。
「結(ケツ)!」
お兄ちゃんが紙を前方に放り投げ叫ぶ。
瞬間、その紙は光を放ち消える。
青白い炎が何か壁のようなものに阻まれ火の粉になって散らばる。
その様が非現実的でしかしながら美しい光景。
実際、起きているの事象は目を疑うようなことばかり。
何の前触れもなく吹き飛んだお兄ちゃんの体。
ライターとかマッチを使っていないのに浮かび上がった炎。
その炎を弾いた見えない壁。
全てが普通じゃありえないこと。
次々と繰り広げられる人知を超える攻防。
炎が飛び、風が吹き、壁ができる。
飛ばし飛ばされ、殴り殴られ。
秋月くんとお兄ちゃんが争う姿が目に焼きつく。
逸らしたいのに逸らせない瞳。
「なんで…」
二人は争っているの…?
そう、問う前に司さんが声を発した。
「真琴、あなたのためよ。凌はあなたのために、秋に喧嘩をふっかけた」
「え?」