獣耳彼氏
憶測でしか言えないのは、何が起きたのか分からなかったからで。
目に見えて分かるような攻撃が見られなかったから。
何の前触れもなくお兄ちゃんは飛ばされたように見えた。
「終わりね」
司さんが呟き、道場の中へ入っていく。
ゆったりとした足取りでお兄ちゃんの元へと向かう。
それに合わせて顔を上げ、苦笑いを浮かべるお兄ちゃん。
と、思ったらサーと音を立てるかの如く顔が青冷めていく。
「つ、司…」
自分の仕出かしたことを理解したのだろう。
秋月くんが気怠げに前髪をかき上げる。
そして深くため息を吐き出した。
一方、真っ直ぐとした歩みでお兄ちゃんの元へと向かう司さん。
彼女はお兄ちゃんの元へとたどり着くと、ニコリと笑みを浮かべた。
「縛(バク)」
笑顔のまま一枚の紙を取り出し唱えた。
紙が司さんの言葉に応え、淡く光りを放ち姿を変える。
一枚の紙ぺらだったのが段々と長く伸びてそれがお兄ちゃんを襲う。
縄のような長さのそれがお兄ちゃんの体を縛り上げた。