獣耳彼氏
腕を組み私を見下ろす。
背の高さが頭二つ分程は違う。
今更だけど、身長差を実感した。
お兄ちゃんよりも背が高い。
「してたろ。背負い投げ。だから、背負い投げ女」
「してました!してましたけども…っ!私にはちゃんと真琴って、名前があるんです!」
そう叫んだのと同時くらいに反対車線の電車が到着するというアナウンスがホームに響いた。
彼はその案内を聞いて、反対車線を一瞥すると再び私を見て。
笑う。可笑しそうに笑う。
何が可笑しいのか笑う。
「じゃあな、背負い投げ女」
歩くのが速いこと。
気づいたときには彼の姿は電車の中へと消えて行った。
追いかけて訂正しようにも無情にも扉は閉まり、乗ろうと思っていた電車も来てしまった。
もう、会うことはないにしてもあの呼び名は嫌だ。
「私の名前は真琴だよ…」
決して背負い投げ女なんて名前なんかじゃない。
最初、冷たく儚い雰囲気を持っていると感じたのは間違いだったのか。
彼はただの分からず屋だった。
気を取直して、本来の目的であった買い物をしようと電車に乗って。
ショッピングモールで買い物しても。
あの人の姿、声が頭から離れなかったのは私だけのヒミツ。