獣耳彼氏
お兄ちゃんはお兄ちゃんで私のことを気に掛けて心配して、守ってくれようとしていたんだ。
全然、そんな素振りは見えなかったのに。
最近では基本お兄ちゃんの姿を見なかったから当たり前だけど。
駆ける足が段々と遅くなり、そして止まった。
目の前には雑木林。
公園に着いて、後はこの雑木林を抜ければ秋月くんが居る。
夕焼け空はこの木々の下までは照らしてはくれない。
もう、その中には薄暗闇が広がっていて、そこは夜だ。
「よしっ」
グッと拳に力を込めて覚悟を決める。
そして、雑木林へと足を進めた。
当たり前だけど、地面は舗装されている訳がなく。
躓かないように、枝に服を引っ掛けないように注意を払って進んだ。
木々の枝や長く伸びた草が行く手を阻む。
それらを避けて何とか進む。
下ばかり向いて歩いていたから、それには直ぐに気付いた。
草木が段々と少なくなり、直ぐ先には芝が見え始めた。
ようやく、着いたのかとホッと息を吐き顔を上げる。
既に太陽は沈んでしまったらしく、月が代わりに空に輝いていた。
その月が薄く照らす丘。
そこに人影を見つけた。
私が待ち望んでいた人物。
「秋月くん、居た…」
小さく呟いたはずが、この距離で聞こえたのか背中を向けていた秋月くんが振り返った。