獣耳彼氏
部活のために着替えた道着から制服へと着替え直す。
何もしない一日があってもいいと思う。
こういう日はなにもしないに限る。
自分の心を最後に整理するためにも。
そして、部室を後にする。
京子と横に並び、まだ明るい空の下帰路につく。
こんな明るい時間に帰ることも本当に珍しい。
「…居ないね」
ポツリと京子が呟く。
校門にはいつも居てくれた彼の姿はない。
そりゃ、好きで来てくれていたわけじゃないんだから、居ないのは当たり前だ。
秋月くんも面倒ごとから解放されてせいせいしていることだろう。
そうだったらいいなと、離れてよかったと思える。
一度、目を瞑り現実を受け入れる。
「ほら、帰るよ」
立ち止まる京子を置いて、私は歩き出す。
隣に来るのは秋月くんではない。
これは、自分が望んだことなんだから。
ズキズキと痛む胸に気付いていない。
私は大丈夫だから。
守って貰わなくても、自分の身は自分で守れるから。
なんのために、ずっと空手をやっていたの。
自分のため、でしょう。
私は大丈夫だ。
強くなれる。
強くなるんだ。