獣耳彼氏
お兄ちゃんの交友関係は全て知っている訳ではないけど。
女の人と言ったら、司さんじゃないのかと。
その人しか私の知るお兄ちゃんの友だちの中で女の人は居ない。
ガチャリと再びリビングの扉が開き顔が覗く。
「真琴、帰ってきたか。さっそくだけど、こっち来てくれん?」
「なんでよ」
覗いた顔はお兄ちゃんで。
私を見つけるなりそう言った。
それに対して私は当たり前に反発する。
「司が待ってるから。後、俺が聞きたいことがあるから」
そう言った、お兄ちゃん。
案の定、来ている女の人は司さんだったらしい。
しかし、お兄ちゃんの言うことに従うつもりは到底ない。
だって、今の私は泣いた後の汚い顔だし、とりあえず誰にも会わずにさっぱり顔を洗いたい。
司さんにこんな顔は見せられない。
お兄ちゃんになんて特に見られたくない。
「今はムリ」
お兄ちゃんの返事を待たずして私は自分の部屋へと階段を駆け上がる。
下から名前を呼ぶ声が聞こえてきたけどそれは無視して。
バタンと勢いよく閉めた扉を背にしゃがみ込む。
やってしまった。
顔洗いたかったのに、部屋に入ってしまった。
これじゃあ、水場が近くにないし、顔を洗うことが出来ないじゃない。
顔を洗うためには下に行かなければ洗面所はない。
それにお兄ちゃんも居ることだろう。
そんな中、下に行こうとは思えない。
「…はあ」
小さくため息が溢れた。