獣耳彼氏
それにしても、なんで司さんが居るんだろう。
お兄ちゃんの口振りから司さんは私を待っていたみたいだけど。
最近は帰ってくるのが遅かったお兄ちゃんが既に家に居るのにも疑問を抱く。
よりによって、私が部活をサボった日に。
「はあ…」
再び深いため息が出たのと同時にコンコンとノックする音が控えめに響いた。
「真琴。少しいい?」
扉の向こうから聞こえてくる凛とした声。
それは、お兄ちゃんのものとは全く違う。
「司さん…」
私が呟けば彼女は言った。
私が心の奥底で最も望んでは止まないことを。
「真琴。あなたは強くなるための覚悟はある?」
あるなら、ここを開けて頂戴。
強くなるための覚悟。
秋月くんに大丈夫と言ったのは自分なのに、離れてしまったことに耐えられなくて泣いてしまった私。
段々と弱くなっていっている私。
心が弱いから秋月くんと会えなくなった事実に泣いた。
本当の意味での強さを私は持ち合わせていなかったのだ。
強くなりたい。
大丈夫だと言った私が本当に大丈夫なのだと秋月くんに知らしめてやりたい。
誰にも守られず、人を守れる人間になりたい。
このまま弱い自分のままでは、いつまで経っても秋月くんは振り向いてはくれない。
強くなりたい。精神的にも、肉体的にも。
そう思えば全ては簡単だった。