獣耳彼氏
スクリと立ち上がり扉を開けのだって簡単なことだ。
顔が汚いことなんて、その時にはすっかり忘れていた。
今の私には強くなりたいという想いが強く湧いて出ている。
扉を開けた先には司さんだけが立っていて、お兄ちゃんの姿はなかった。
司さんの瞳を真っ直ぐ見つめる。
「強くなりたいです」
力強くそう言うと、分かっていたのだろう。
柔らかく微笑む司さんがそこに居る。
「中、入ってもいい?」
「あ、はい。ど、どうぞ…」
何となく、断りづらい雰囲気が漂う。
仕方なく司さんを部屋の中へと招き入れた。
この間、掃除したばかりだから変なものは出ていないはずだし。大丈夫。
小さなローテーブルの近くに隅に置いてあった座椅子を持ってくる。
「どうぞ、座ってください」
それを指し示し私がそう言うと、ありがとうと呟き座った司さん。
「ああ、そうだった」
その時、気付いたと言わんばかりに司さんがどこに持っていたのかお盆を取り出し机の上に置いた。
そのお盆には濡れタオルがちょこんと乗っかっている。
「とりあえず、これで目を冷やして」
やっぱり、酷い顔ね。
くすりと笑う司さんの言葉が京子のと重なる。
そんなに酷いのか、今の私の顔は。