獣耳彼氏
クスクスといつまでも笑い続ける京子が言う。
「部長も諦めないね〜」
「本当、いい迷惑」
ガーンと大きな石が頭上に落ちてきたかのようにオーバーなリアクションをとる部長。
しかし、それも一瞬で顔を上げると私を指差し、
「俺は諦めないからな!」
と、捨てゼリフを吐くと更衣室へと駆けて行った。
まず、人に指を差したことに対してツッコミたいところだったけど、そんな暇もなかった。
「真琴、付き合ってあげたら〜?」
今度は京子の柔軟を手伝っていると、彼女が聞いてきた。
そう。この学校に入学して、空手部に入部した当初から、部長のアプローチは止まらない。
まず、初めて会った瞬間、いきなり好きだと言われた。
本当の一回目の時は、初対面で何を言っているのかと変に思った。
イタズラか何かなのかとも。
何回か言われる内はからかっているだけだろうと、流していたけど。
それも10回以上ともなると、さすがに疑問を持った。
本当に私のことが好きなのかと。
本人にそのことを直接聞いてみれば一目惚れとか言うし。
愛してるとまできた。
そんなことまで言われると、寒気がするし、重いとしか思わない。
私を見つける度に告白してきて、鬱陶しいことこの上ない。
「絶対に嫌。まず、自分より弱い人はもっと嫌」
「何それ〜真琴より強い人なんているわけないじゃん」
一度そのことを伝えて、部長と手合わせすることになったけど、それはそれは瞬殺だった。