獣耳彼氏



「い、今のをやるんですか?」


「ええ。ただ、札を放って発(ハツ)と唱えればいいわ」



今は何も考えずにやるだけやってみて。


やるだけと言われても…


手の中の札に視線を落とす。変哲もないただの紙のそれ。


顔を上げ司さんを見れば彼女は頷いて私を促す。


いいから早くやってと言いたげに。



ええーい!女は度胸!どうにでもなれ!


三枚の札を前へ投げ飛ばすと続けさまに私は唱えた。



「発(ハツ)!」



唱えた瞬間、三枚の内二枚の札は何も反応が起きずにヒラヒラと舞い落ちる。


しかし、残った一枚には変化が見えた。


さっき司さんが行った時と同じように淡く光を放ち、私の腹部辺りに吸い込まれたのだ。



「ひあっ!」



思わず声が溢れるが大きな体の変化は現れず。


札が吸い込まれた辺りが仄かに暖かくなり消えただけだった。


自分の体に何が起きたのかと、お腹に手を当てるが違和感も特にない。


ポカンと首を傾げる。



「なるほどね…」



落ちた札を拾いながら司さんが呟く。



「あの、何が起きたんですか?」



これから、自分の体に何か起きるのではないかと心配になってくる。


今の所大きな変化はないけど。だとしてもだ。



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