獣耳彼氏
「大丈夫よ。簡単な術で貴方の力が何に干渉しやすいか見ただけだから。真琴は身体強化の術が合っているみたいね。兄さん」
「お呼びで!司!」
バビュンと物凄い速さで司さんの横へと移動した要さん。
ここにも犬が居たのか…
その勢いのままに抱きつこうとした要さんを司さんは投げ飛ばした。
それはそれは、惚れ惚れするような見事な背負い投げで…
「後は任せたからね、兄さん。真琴も。何かあったら連絡してくれれば来るから。頑張って」
司さんは微笑み言うと、もう用事は終わったと部屋を出て行こうとする。
伸びている要さんはそのままで。
いやいや!何か凄く不安!
要さんと二人っきりなんて不安しか残されない。
「ちょっと、待ってください!」
「…何」
呼び止めたことに、司さんは足を止め振り返る。
正直に正直に伝えよう。
「要さんで大丈夫なんでしょうか」
失礼なのは承知で司さんに尋ねる。
すると、彼女はまるでゴミでも見るかのような何の感情も見られない瞳で要さんを見やった。
幸せそうな顔で今もまだ伸びているその人。
「あんなのでも、術は使えるから。嫌かもしれないけど、兄さんに教えて貰って。そして、思う存分ボコボコにして」
それだけ言うと今度こそ振り返ることなく部屋から出て行った。