獣耳彼氏
「手合わせしてみるか」
「え?要さんと、ですか?」
「当たり前だろう。他に誰か居るのか?」
メガネを押し上げ言う要さんに少しイラッとする。
なんでだろう。時たま要さんにはイラッとする。
初めて会った時にも思ったけど、一々癪にさわるというか。
イラッとするのが要さんという存在と言ってしまえば一言で済んでしまうけど。
要さんがどうするのかと私を見ている。
手合わせをしてくれるというのなら是非に。断る理由がない。
だって、今の私がどれだけの実力を持っているのか、知るいい機会にもなる。
それと合わせて理由をつけて要さんをボコボコにできる…じゃない。うん。
要さんの実力がどれだけのものか分からないけど。
一応、私を指導しているぐらいだ。
強いからこそ、司さんは要さんに頼んだのだろう。
「お願いします」
言って頭を下げる。
「手加減は一切しないからな」
「大丈夫です」
確認するように言う要さんに私は頷く。
手加減なんてものしなくていい。
私がどれだけの実力を持っているのかちゃんと分からなくなるし。
私が勝った時の言い訳にもして欲しくないから。
まあ、要さんが言い訳するとは思っていないけど。
自分から手合わせを言ってきたことだし。
手加減していたから負けたんだと言い訳する人、嫌というほど見てきたから。
要さんを前に一定の距離を保って立つ。
彼がメガネを外した。それが開始の合図。