獣耳彼氏
司さんのとよく似た黒い瞳が妖しく光る。
鋭くなる眼光に一瞬ひるみそうになった。
が、そんなことで遅れを取っていてはいけない。
ポケットから札を取り出すとそれを前に言って放ち。
「発(ハツ)!」
力強く唱えた。光と変化したそれは私の足へと吸い込まれていく。
まずは集中的に足だけに術をかける。身体強化の術。
問題なく発動した術に安心しつつ、要さんにまずは一発食らわそうと足に力を込め、跳んだ。
一気に距離を詰め、手を握り拳を作る。
「ッハ…!」
短く息を吐きそれを振り上げる。
手加減は私も一切しない。
相手が要さんということも大きく関係しているとかない、はず。
振り上げた拳を彼の顔めがけて振り下ろす。
ーヒュンッ!
しかし、それは何かに当たる気配をもなく、拳が空を切る音だけが耳に届いた。
避けられたのだと、瞬時に理解したと同時に消えた要さんの姿を探す。
広い部屋の中に人影は見当たらない。
この部屋に隠れられるような場所は一切ないのにだ。
前後左右とくまなく視線を送るがどこにも要さんは居ない。
気配。気配を探らないと。
目だけじゃ追えないことも気配でなら分かることもあるはず。
集中するために一度目を瞑る。
これがもし空手の試合だったら、目を瞑るなんてことできるわけがない。
だけど、今やっているこれは手合わせ。
ましてや、空手のような生易しいものでもない。
特別な力が働きかける手合わせなのだから。