獣耳彼氏



「ざまあないわね」


「…え?」


「あ!」



聞こえてきた声。


振り返ればいつから居たのか、そこには司さんの姿。


その隣にはお兄ちゃんも居る。


なんでここに居るの?


そう言おうとした言葉が出るよりも先にある現象によって遮られた。



「うわっ!」


ードスッ「つっかさぁー!」



ガバリと。その表現が一番合っているその行動は華麗にかわされ。


逆にかわすと同時に背中に蹴りを入れた。


そう、司さんが要さんにだ。流れるような動作で。


司さんに抱きつこうとした要さんはお兄ちゃんを突き飛ばして。


突き飛ばされたお兄ちゃんと蹴られた要さんが仲良く床に倒れているこの状況。この光景。



「司さん…?」


「こんにちは。真琴」



微笑む彼女の横にある屍が気になるところだけど。


まずは、なぜここに居るかだ。


いつの間に入ってきていたのか、全然気付かなかった。



「様子を見に来たわ。…修行は順調のようね」



チラリといまだにうつ伏せに倒れて延びている要さんを一瞥する。


しかし、すぐに興味がなくなったのか顔を元に戻す。



「いつから見ていたんですか?」


「手合わせを始めたところからね」



手合わせを始めたところとか、つまりはそれって、全部ということ。


一部始終見られていたと思うと、なんか恥ずかしいんだけど。


修行なんだし、恥ずかしいとか言ってる場合じゃないんだろうけど。


知ってて見られるのと、知らないで見られるのとでは、やっぱり心持ちが違うというか。


見られることが恥ずかしいことには変わりない。



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