獣耳彼氏
「私には好きな人が居るんです。だから、ごめんなさい…」
椎名先輩の目を見て、そして頭を下げる。
反応が怖くてすぐには頭を上げられない。
頭を下げたまま、無言の時が過ぎる。
自分の息遣いだけが耳に届く。
「そっ、か…」
椎名先輩が小さく呟く。
恐る恐る顔を上げれば悲しげに笑う椎名先輩の姿が目に入る。
分かっていたと彼の目が言っている。
「やっぱり、か。あの金髪の奴、彼氏…だもんな。…俺は遅かったんだ」
独り言のように言う椎名先輩。
彼の言う金髪の奴が秋月くんを指しているのはすぐに分かった。
一度、部長とは鉢合わせてるから。
ということは、部長は私に彼氏が居ると分かった上で告白したんだ。私に。
改めて告白しようと思った部長の心情は私には分からないけど。
もし、私だったら。
秋月くんに彼女が居るのを知った後に告白なんてきっとできない。
今でさえ、私の本当の気持ちを伝えることはできないのに。
できないからこそ、離れることを決めたのに。
そう思うと、今この時告白してきた椎名先輩の勇気は凄いものなのだと、伝わった。