獣耳彼氏
何かあった時のために、すぐに連絡が取れるように携帯を手に握りしめる。
近くに交番があればそこに行けばいいのだけれど、生憎とこの近くには交番はなく。
交番のように、すぐに駆け込めるようなところがないのだ。
救いなのはお店がポツポツとあるということ。
何かあった時にはそこに行けばいい。
黙々と後ろの存在を気にしながら人通りの多い道を何周も歩く。
本格的にどう対処しようかと悩み始めた、その時。
手に持っている携帯が震えた。
それも一度だけでなく一定のリズムで。
そのバイブが知らせるのは着信。
相手をろくに確認もせずに通話にする。
「も、もしもし…!」
急いで耳に当てれば思った以上に切羽詰まっていたのだと分かる。
誰でもいいから助けて欲しい。
どうしたらいいのか助言が欲しい。
そう思って電話の相手を待つ。
「よかった。真琴ね」
「つ、司さん!あの…!」
凜とした声が耳に届く。
その声の持ち主は司さんですがるように声が上ずってしまった。
司さんならどうにかしてくれるのではないかと。
そんな思いが先に出て。
「分かってるわ。そのまま、丘に行きなさい。大丈夫。すぐに私たちも着くわ」
「丘ですか」
「そう、丘。分かるわね」
「はい」
丘と言われて思いつく場所は一つしかない。