獣耳彼氏
隣に並んで歩いていたかった。
私の願いはたったそれだけのことだった。
守られて、傷ついて姿を見て。
そんなのは嫌なんだ。
夢で見た光景が脳裏に蘇る。
傷ついたお兄ちゃんや司さん。そして、秋月くん。
そんな姿は夢であっても二度と見たくない。
それがもし現実にでもなってしまったらと考えると。
怖くて仕方がなくなる。
「私は強い。強いから」
自分に言い聞かせるように呟く。
視界が開けた。丘に着いたんだ。
星の光だけでは木々が生い茂る雑木林はやはり暗く。
丘についてもそれはあまり変わらなかった。
街灯があるのとないのとでは大違いな夜。
後ろからは諦めていないのか、ガザガザと草を掻き分ける音が聞こえてくる。
それは段々と大きくなってきて。
姿が現れる前に駆け足で丘を上った。
少し高い位置からその人を待った。
心臓が早鐘を打つ。
薄っすらと人影が覗いた。
それに気付いたら一瞬で。その人は姿を表した。
「椎名、先輩…」
なんで。と言葉は続けられなかった。