獣耳彼氏
秋の空に浮かぶ月と
トボトボと俯き加減に帰路に着く。
走ったことで乱れた息と心臓も段々と落ち着いてく。
月と街灯で夜の闇が明るく照らされる。
静かな夜の空間に心が落ち着く。
「…あ」
その時だった。
静けさを打ち破る声が背後から聞こえたのは。
「…っ!」
部長が京子を振り切って追ってきたのかと慌てて振り返る。
と、そこには。
私が想像していた人物とは似ても似つかない別の人。
綺麗な金髪を持つあの人が居た。
先に向こうが私の存在に気づいたようだ。
当たり前のことだけど。
私の後ろに居て、彼が先に声を発したのだから。
それよりも。
「はぁ、よかった…」
部長じゃなくて。
部長だった場合、今までの私の苦労が水の泡だった。
部長に家を知られないように走ってたのに。
あの人のことだ。
家を知られてしまったら、ストーカー紛いのことをしかねない。
「何を怯えてる?」
「…え?」
ホッと息を吐いた私に。
予想もしていなかったことに、彼から話しかけてきた。
そのことにびっくりして、思わず彼の顔を見つめた。