獣耳彼氏
「ボクはそこに居る秋月の兄で秋夜。よろしくね」
「誰がよろしくなんてするか」
「わっ!実の兄に向かってヒドイなー」
カラカラと笑いながら言っても響かない。
ヒドイとか口では言ってるけど、心ではそんなこと一切思っていないんだろう。
全然心が篭ってない。
秋月くんが秋夜さんを睨みつける。
まるで、敵(カタキ)にでも会ったかのような憎悪の込められた瞳。
それが、兄弟に向けるような感情ではないことは一目瞭然。
私でさえお兄ちゃんにそんな感情を向けたことはない。
…司さんは分からないけど。
司さんが要さんに向ける感情。
あれは、嫌悪であって憎悪ではないと思う。
あくまで、私がそう思っているだけで、実際司さんがどう思っているのかは知らないけど。
風が吹き始めた。
さっきまで収まっていた風が炎を微かに巻き上げる。
「なぜ、あの人間を操っていた」
「さすがだよなー秋月は。いとも簡単にボクの催眠を解くんだもん」
「質問に答えろ」
秋月くんの怒りに呼応するかのように風が強くなる。
強くなった風は辺りを赤に染めていた炎を吹き飛ばした。
炎による明かりがなくなったことで、一気に暗くなる。