獣耳彼氏
「なぜ、マコトを狙った」
私!?そこで自分のことが出るとは思ってなくて秋月くんを見つめた。
ここから見えるのは彼の背中のみ。
彼がどんな表情をしているのか、ここからでは分からない。
秋夜さんの瞳が私を捉えた。
闇夜に浮かぶ秋月くんと同じ金色の瞳が。
「なぜって?」
そんなの決まってるじゃないか。秋夜さんが一息置いて続けた。
「秋月のことが好きで嫌いだからだよ…っ!」
ブワッと強くなる風。
それは鎌鼬となり、風の刃が秋月くんへと迫りくる。
秋月くんの怒りから発せられていた風をも上回る強風。
リョクさんが守ってくれているとはいえ、それでも足の力を少しでも緩めたりでもしたら飛んでいってしまいそうだ。
低く唸るような風鳴りが耳につく。
風鳴りに混じる刀を振るったような風を切る刃の音が恐怖心を駆り立てる。
ヒュンヒュンと無数の刃が無差別に空を切った。
ザシュ!肉を裂くような音と共に赤が散る。
秋月くんが…秋月、くんが…秋月くんが、切られた。
避けた様子もなく、そこに立ったままの秋月くんの肩口から血が流れ出す。
深くは切れてないようには見えるけど、切られたことには変わりない。
「秋月!何してんだよ!」
「凌!…ああ、もう!真琴!あなたはそこに居るのよ!リョク、分かってるわよね」
「御意」
お兄ちゃんと司さんが秋月くんの元へと駈け出す。
だけど、そんな二人の様子に気を止める余裕は私にはなかった。