獣耳彼氏
まるで、憑き物が取れた。そんな表情だ。
私も笑った方がいいのだろうか。
相手が笑いかけてくれているのなら、こっちも笑った方が。
どうしようか悩んでいた私の前に影が差す。
「え?」
「何だよ秋月」
私と秋夜さんとを遮るように体を移動させたのだ。そう彼。秋月くんが。
何となく背中から漂うオーラがむすっとしている気がする。
顔が見えないから何とも言えないけど。
「…るな」
「何?秋月。ハッキリ言ってくれないと分からないけど?」
顔を横にずらしてようやく見えた秋夜さんはニヤニヤ。
その表現が一番合っている笑みを浮かべていた。
ぐっとまるで苦虫を噛み砕くような唸り声を零す秋月くん。
彼は何を言うのに躊躇しているのだろう。
ほら、言ってみないと分からないよと、秋夜さんが煽る。
「…ッチ。…見るなって言ったんだよ」
舌打ちと共に吐き出された言葉。
見るなとは何を。
秋月くんは何を見られたくないのか私にはさっぱりだ。
ここには隠すようなものもないのに。
やれやれと呆れたように秋夜さんは手を上げる。
「秋月。ちゃんと主語を入れないと。彼女、分かってないよ」
秋月くんを避けて私の方へと来ようと体をずらした秋夜さん。
瞬間、追うように秋夜さんと同じ方向へと体をずらす秋月くん。
秋夜さんが体をずらせば、秋月くんも追ってずらす。
しばらく、二人の謎な攻防が続いた。
答えの見えない攻防を首で追う私。