獣耳彼氏
これこそが逃走本能というやつで
バシンッと大きな音と共に手のひらに痺れが残る。
秋月くんが驚きで表情を固めている。
常に秋月くんはポーカーフェイスというか、無表情というか。
感情があまり表に出ることはなかった。
ようやく笑みを見せてくれるようになった頃、私は離れた。
そして、再会してからは怒ったような表情ばかりしか見ていない。
そんな秋月くんが拍子抜けした表情を浮かべている。
「マ、コト…」
「ふはっ!ほら、言わんこっちゃない」
秋月くんの背後で秋夜さんが笑っている。
目の前には驚愕で表情を固める秋月くん。
ジンジンとした手のひらの痺れが徐々に治っていくのと同時に体の熱も急激に冷えていく。
わ、私。一体、何を…
目の前に立つ彼は私を見るだけで何も言わない。
後ろでは未だに笑い続ける秋夜さん。
お兄ちゃんが司さんを抱え起こしているのが司会の端に映る。
二人とも倒れていたのは当たり所が悪く気を失っていただけで、大きな怪我とかはしていなさそうだ。
ホッとしたのも束の間、秋月くんが口を開いた。
今度こそ怒られる…っ!