獣耳彼氏
私は咄嗟に体を反転させて逃げ出した。
頭にきたからといって叩くべきではなかった。
もっと、いい方法があったはずなのに。
そんな考えが頭の中を巡る。
しかし、その考えもすぐに消え去り一刻も早く秋月くんの元から離れることに意識が行く。
「真琴!」
お兄ちゃんが私を呼んでいる。
だけど、それに答える余裕は今の私にはない。
雑木林、公園へと逃げようと丘を駆け下りる。
その駆ける体が思いもよらぬ力で引き止められた。
腕を力強く掴まれている。
誰とかそんなこと思う必要もなかった。
掴まれ振り替えさせられた私の瞳には秋月くんの姿しか映らない。
「何、怒ってんだよ」
叩かれた意味も怒っている意味も逃げ出した意味も。
きっと彼には分からないんだろう。
私が怒って叩いた意味なんて。
あなたの言った言葉のせいに決まっているのに。
『黙って立っていればいい』
その言葉のせいだというのに。
私の存在を全て否定された気分になったというのに。
秋月くんは何でもなく言った言葉だろうけど。
私にとっては…
「秋月が突き放したからでしょう?そうだよね、マコトちゃん」
「だ、から!お前は呼ぶな!」
「ほーら、ボロが出た」
秋夜さんの言ったことはその通りだった。