獣耳彼氏
私だって普通の女の子。
ちょっとそこらの男よりも強い、くせ毛がコンプレックスの女の子だもん。
「呼ぶなら真琴って呼んでください」
彼にはきちんと名前で呼んで欲しい。そう思った。
数える程度しか会ったことがないのに、なんでこうも彼のことを気にしているのか。
言わば知らない人に名前を教えてる状況。
普通じゃありえない状況。
私がそう言うと、彼は一度目を伏せ、そして首を斜めに傾けた。
まるで、人を見下すような仕草にドキリとする。
これが部長だったら一発ぶちかましているだろうけど。
目の前の彼はそれすらも様になっている。
ムカつくことに。
「マコト…」
これでいいのか。そんな、したり顔を浮かべる。
なんとなく、彼は素直に言うことは聞いてくれないだろうと思っていたから、不意打ち。
すんなり名前を呼んでくれたことに驚いた。
それと共に、心臓が疼いた。
その声で名前を呼ばれたことで。
「そ、それでいいです…」
何か今更ながら、恥ずかしくなって小声になってしまった。
それでも、彼にはきちんと聞き取れたらしく、微かに口角を上げた。
「アキヅキ」
「…え?」
アキヅキ。