獣耳彼氏



拘束が解かれたことでまた逃げ出してしまうかと思ったけど、秋月くんは予想に反して逃げることはせずに上半身を上げるだけだった。


俯き表情は伺えないけど、逃げる様子はない。



「じゃ、じゃあ、俺は行くけど」



お兄ちゃんは私に心配そうな視線を送るが、そこは司さんの伝言の力か。


すぐにそこから駆けて行った。



「ありがとう。お兄ちゃん」



私の言葉に答えるように手を上げ去って行き、姿は瞬く間に見えなくなる。


残されたのは私と秋月くんの二人。


街灯が秋月くんの金髪を照らしている。


綺麗な色をした髪の毛が彼の顔に影を落とす。



「…ふぅ」



小さく一つ息を吐き出すと、そんな彼の元へと歩み寄り手を差し出す。



「大丈夫ですか?秋月くん」



そう私が問いかければ彼は顔を上げる。


茶色の瞳が私を捉えた。一度捉えられると私からそらすことは出来ない。


逃れられないその瞳。


私も私で彼の瞳を見つめ返す。



無言で私が差し出していた手に手を乗せ秋月くんは立ち上がった。


私と秋月くんとでは身長差があるから自ずと見上げる形となる。


立ち上がるその間も私から目をそらすことはなかった秋月くん。



「…どうして来た」



形の良い彼の口が開く。


どうしてなんて、そんなの。


そんなの気になったからに決まっているのに。



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