獣耳彼氏
第八章
夜のそれから
「帰るぞ」
火照る頬を秋月くんの手が撫でる。
サラリとした冷えた手の感触は直ぐに離れ、そのまま流れるように私の手を取った。
キスの余韻が残る中、コクリと小さく頷く。
優しく引かれた手をぎゅっと握った。
すると、それに答えるようにゆっくりと力強く握り返してくれる秋月くん。
スッポリと私の手を包む大きな手のひら。
自分のものとは違うゴツゴツと骨張った男の人の手。
安心感のあるその手が私の手を握っているその事実は夢ではない。
家へと帰るために歩き出した足は至極ゆっくりで。
秋月くんが意図して歩みを緩めていることは一目瞭然だ。
チラリと秋月くんのことを盗み見れば、前だけを見据えていて私が見ていることには気付かない。
ただ、私の家へと向かって歩いている。
公園を抜ければ10分そこらで家に着く距離。
しばらく歩いたけど、秋月くんは何も喋らない。