獣耳彼氏
「…っふぁ!」
ーーブルブル。
その時、スカートのポケットに入れていた携帯が前触れもなく震えた。
前触れもなく震えることは当たり前のことなのに、変な声が出てしまったのが少し恥ずかしい。
秋月くんが怪訝そうに私を見ている。
そのことにまたも、顔に熱が伝わっていくのが分かる。
慌てて携帯を確認すると、お母さんからの着信。
どうしたのだろうと、通話をタップする。
「もしもし?」
「真琴?どうしたの、帰ってくるの遅いけど何かあった?」
お母さんからの無事を確認する電話。
話し込んでいたわけじゃないけど、結構時間が経っていたのかもしれない。
心配したお母さんが電話してきたんだ。
うちは帰りが遅くなる時は事前に連絡しておかないと、閉め出されてしまうというよく分からないルールがある。
私の場合は女の子だし、閉め出されることはないけど、兄二人は次の日の朝まで外で野宿になる。
この間も、お兄ちゃんが閉め出されていた。
もう一人の兄は既に自立して、一人暮らしを始めているから関係はないけど。
だからこうやって、お母さんから電話がかかってくるのはよくあること。
言っていた時間よりも遅くなった場合だけね。