獣耳彼氏
今日は、京子と話し込んでいたのと、ここで秋月くんと会ったために立ち止まっていたことで遅くなったのだろう。
「何もないよ、大丈夫。今、帰ってるところだから、心配しないで」
「そ、分かった。気をつけて帰ってくるのよ」
「はーい」
電話が切れたのを確認すると、顔を上げる。
律儀に私の電話が終わるのを秋月くんは待ってくれていた。
そのことに少し驚いてしまったのは、バレてはいないと思う。
「あ、秋月くん。待っててくれてありがとうございます。でも私、帰らないとだから。それじゃあ、またね」
待っててくれたことは、素直に嬉しかったけど、お母さんからの電話は裏を返せば早く帰ってこいの合図。
急いで帰らないといけない。
秋月くんには申し訳ないけど、彼の返事を待たずして、私は駆け出した。
私の突然の行動に秋月くんは何か言いたそうだったけど、最後に彼は笑ってくれていた。
「…またな」
家までの道のりを走っている中で思う。
特に秋月くんと連絡先とか交換はしてないけど。
またねって言ったのは、またすぐ会えるようなそんな予感がしたから。
また、必ず会える。
そんな確固たる自信があったから。
「またね、秋月くん」