獣耳彼氏
京子がニヤニヤと悪い笑みを浮かべながら顔を近づけてくる。
その距離およそ10cm。
…ち、近い!
そんな私の内心は裏腹にまだまだ、と更に顔を近づけてくる京子。
「で、で!アキヅキくんって!?誰のこと〜?」
誰?誰?と、如実にその顔に気になると現れている。
もしや、彼氏とか!?とまで。
勝手に妄想が膨らんでいる様子。
口を開かずとも京子の顔を見れば、何を考えているのか一目瞭然。
全てその顔に書いてある。
「なんでもなーい」
何となく、秋月くんのことを京子に教えようとは思わなかった。
私だけが秋月くんのことを知っておきたい。
そんな感情、思いが私の中に芽生えていた。
なんと言ったらいいのか分からない感情。
「え〜なんでよ〜教えてよ〜」
京子がすがり付いてくる。
お願いお願いおねが〜い!と、何回も繰り返す。
すがり付いてきた腕を前後左右に振るから、それにつられて体全体も揺れる。
ぐわんぐわんと頭が揺れ、気持ち悪くなる程度には。
「教えない〜!」
その時、ナイスタイミングでチャイムが鳴り響いた。
「あ、ほら、チャイム鳴った。はい、戻って戻って」
渋々といった感じで京子が自分の席へと戻って行き、私は小さく息を吐いた。