獣耳彼氏
それからは、京子にからかわれないように、部活が終わったら、瞬く間もなく制服へと着替え学校を後にした。
昨日よりも格段に早い時間。
ふと空を見上げると、まだ太陽は沈みきっておらず、微かに明るい。
その中で一際、目を惹くのが月。
満月から少し、ほんの少し欠けてしまったけれど、その輝きが衰えることはない。
月の色が秋月くんの髪の色と重なる。
「あ…似てる」
月に。儚くも闇の中では自分の存在を主張する月と。
冷たそうなイメージからは思いも寄らない暖かさを見せてくれた秋月くんと。
儚さをも持っている秋月くんと月はやはり似ている。
思わずその場に立ち止まっていると、視界の端を黒い影が駆け抜けた。
自転車や車なんかじゃなく、人の形をした何かがもの凄いスピードで目で追うことの出来ない速さで。
「何…今の…」
影が通り過ぎていった時間差で風が頬を撫ぜる。
ザワッと不気味に木々が揺れる音が聞こえ、生ぬるい風に背中を悪寒が奔る。
「…さっさと帰ろう」
このままここにいたらダメな気がする。
立ち止まっていた足に命令を送り走り出した。
急いでここから離れるために。
走り出したと同時に再び黒い影が先ほどの影を追いかけるかのように通り過ぎた。
さっきの生ぬるい風とは違う、暖かい風と一緒に。
感じたことのある暖かさと一緒に。