獣耳彼氏



「…少し気になるが大丈夫だろう」



秋月くんがボソッと呟く。


気になる…?何が?


彼がなんのために私を待っていたのかさっぱりだ。


秋月くんはもう用はないと言うかのように、私に背を向けた。


そして、そのまま何ごともなかったかのように歩み出す。


…え!?何それ。


私には何も言わずに去って行こうとするの?嘘でしょう。


その時、ふと昨日の京子の言葉を思い出した。



『アキヅキくんに彼氏のフリをしてもらえば、それこそ万事解決…』



その途端、顔に熱が上がっていくとともに、私は叫んでいた。



「あ、秋月くん!」



彼が行ってしまう前に引き止めるべく。


すると、秋月くんは私の呼びかけを無視することもなくゆっくりとその場で振り返った。


茶色の双眼が私を見つめ、金色の髪が太陽の光を受けキラキラと輝く。



「…何?」


「えっと、あの…一つ、お願いしたいことがありまして…」



彼の元へと歩み寄り、私は顔を上げた。


さっきとは逆に、今度は私が真っ直ぐに秋月くんの瞳を見つめる。


彼が受けてくれるかは分からない。


とりあえず、聞いてみるだけ。


聞いてみるだけでもやってみよう。


そうしないと、ずっと進歩しないまま終わってしまうから。



「あの!私の…彼氏のフリをしてくれませんか!?」



そして、私は言った。



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