獣耳彼氏



「彼氏のフリをしてくれませんか!?」



私がそう言うと、秋月くんは最初怪訝そうに顔を顰めた。


なんでと、言葉を発せずともその端整な顔が疑問を物語っている。



それは、そうだ。


急に突拍子もないことを言い出したんだもん。


自分でも分かってる。変なこと言ってるって。


それでも、少しでもほんの少しのでも可能性があると信じて。


部長を遠ざけるためにも必要なことだと思うし、聞くだけでもしないと結果どうなるかなんて分からないから。



「いや、あの。この間、逃げて来たって言いましたよね」


「…ああ。あの時な」



一昨日の夜のことを秋月くんは覚えていてくれた。


それなら、話が早いかもしれない。



「あの時は、部長から逃げて来たんです。部活の」


「…部活」


「はい。空手部の」



私がそう言うと、秋月くんは納得したような顔を浮かべた。


だから、背負い投げか。みたいな。



「それで、その部長がなんだ」


「えっと…」



理由が自分で言うには自意識過剰に思えて言うのが少しはばかれる。


けど、言わないと秋月くんは納得してくれないよね。



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